caprinのミク廃更生日記

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学園祭の話 (伊藤計劃:第弐位相)

http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/20061029#p1

 「げんしけん」9巻の限定版同人誌で篠房六郎氏がやっちゃったルサンチマン漫画をこれ以上ないくらいに素敵に補完してくれるテキストがここに。いや〜、楽しませてもらった。自分なんかはあの篠房氏のルポ漫画を読むために「げんしけん」を読んでいたんだと思うくらいにあの漫画を気に入ったのだが、あれは結構ノンフィクションな話だったんだねえ……。こうなってくると、その現役生とかのテキストというか生の声も聞きたいぞ。

しょぱく青臭い会話の数々。サークルボックスに入ったとたん、あの頃のモードに戻ってしまうオタの悲しい習性。しかし、篠房氏はさらなる鬱屈を溜め込んでいるようである。部員がイケメン過ぎ、かわい過ぎ、つまりはフツーで、屈託がなさすぎるというのだ。いや、そりゃあなたは昔から鬱屈していましたから。しかし確かに、いまの部員の子を見ていると、とても高校まで人に分かってもらえないサブカルチャーな漫画文化に触れてきた子達とは思えない。高校のとき、同じ趣味を周りと誰も分かち合えなかったような孤独を背負った子の気配が。篠房氏曰く、「そんな子は、いまは、いない」と。皆メインストリームしか見ておらず、「あれは神」「萎え」などと快不快の伝達に終始し、青臭い批評的アクションを起こすものは皆無だと。「たぶんみんな、高校でクラスの中心のグループにいた人たちばっかりだ」オタ文化が市民権を得た故の情報劣化か。「なんでオタクだからってハブされるんですか?」われわれが中高を過ごしたヘボい鬱屈を今の子達は理解できていないのだ。まあする必要もないが。彼らには「好きな作家」すら存在しないと篠房氏は言う。作家というのは、まあそればかり拘るのもアレではあるが、ある程度まで有効な批評的、あるいは内省的契機となる戦略だと思うけれど、彼らには「作家から見る」という視点も「作家を遡る」というアクションもないそうだ。作家ではないが「ガイナックスが好き」と言った現役生に、「じゃあ最近はトップ2?」「そうですね」「よかったです」「ファーストは見た?]「実は見てないんです」おいおい。ファーストみないで「2」の最終回は意味不明だろが。とにかく彼らは深く埋没しないし遡らない。健康なのだ。篠房氏はその健康さまっすぐさに戸惑っていた。人とつるむために作品を消費している彼らは、学校の休み時間に話題にされるテレビと大差ない作品への付き合い方をしている。コミュニケーションの緩衝材だ。しかし篠房氏は言った。そうじゃないだろう。俺はこれが好きだが、誰にも言えないしそもそもそのマイナーな漫画の感動を分かち合うやつもいなかった。けれど学校に入って漫研に入ったら、それを知っている人々がたくさんいたんだ、と。

いまの子達はアニメとエロゲと漫画しか見ない。映画の話ができる人はたぶんいない。長くこの場所に来ていなかった私に、時々ここへアシスタントを物色しにきている篠房氏はそう言う。入学当初はね、ナチ好きの女の子がいたんですけどね、「戦争のはらわた」とか「地獄に堕ちた勇者ども」とか「愛の嵐」とか一応抑えている新入生。でも最近見かけないんですよ。やっぱ彼らはクラスの中心で、彼女はクラスの隅っこで一人になる子だったんじゃないでしょうかねえ、と誰かが言う。かつてはクラスの隅っこにいた痛々しい孤独な連中が、自分と同じものの見方を持っている人がいると知って、救われる場所がここだった。それはもちろん、外から見ればイタい集団ではあるが、そこにいた連中はお互いのイタさを知っていた。そして、オタ文化がメジャーになったとき、クラスの中心にいた連中もそこに流れ込み、「薄い」ひとたちはその薄さゆえ天下をとった。ナチ好きの彼女はいまどうしているのだろう。革命が成し遂げられた暁に、我々は安住の地からもイタくてウザくて「違う」ひとだとみなされる様になったのだ。これじゃまるで「灰とダイヤモンド」ではないか。WWII後のポーランドならぬ、オタクルネッサンス後の我々は、あの映画のように新世界に対するレジスタンスとなってしまったのか。健康な人間が勝利するのはあたりまえだ。彼らに悪意はない。悪意があるのは、われわれのほうだ。

 しかし、ヲタクの話とは直接関係ないところで、日本の技術立国としての立場はこれからますますやばくなるなと思いちょっと暗くなった。ここに出てくる大学生達が悪いというわけではないけど、こだわりが少ないということは結局、物事を深く追求をしないということだ。それら本来のヲタク気質を持った人が少なくなると、各専門分野で活躍する人も絶対に少なくなっていくよなあ……。
 かと、いってここに出てくるようなナチ好きな女の子が健全なOLをやっているというのもイマイチ現実味のない話なので、会社的にどっちがいいのかと言われるとやっぱり健康なヲタクの方がいいんだろうなあ……。旧ヲタクな我が同士達よ、最後の一兵になるまでレジスタンスとして戦おうぞ。(ちょっと弱気)


・参考リンク [Comic] 超豪華同人誌ふたたび! 『げんしけん』9巻特装版 (ラブラブドキュンパックリコ) (再掲)

http://d.hatena.ne.jp/Maybe-na/20061228/1167340035


言及リンク 戦ったり楽しんだりオタクって忙しいのかな。 (たまごまごごはん)

http://d.hatena.ne.jp/makaronisan/20070103/1167767036


・関連リンク オタクとげんしけん篠房六郎痴漢男 (にっきちょう)

http://d.hatena.ne.jp/wen000/20070101