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第44回 「民」に力負けする政府 深層中国?巨大市場の底流を読む | Wisdom
すでに一部に過激な破壊行為をともなった抗議活動に対しても政府はなすすべがなく、ともかく市民の要求を容れて騒ぎを収拾し、その結果、合法的な活動を営んでいる企業や市民の権利が侵害されるというケースが出てきている。要するに声の大きい者の要求が通るという典型的な「ゴネ得」の状況が現れ始めている。この流れがエスカレートするとどうなるのか、不安を覚える。こうした状況に立ち至った背景には何があるのか、今後、権力と「民」の関係はどうなっていくのか。今回はそのことを考えてみたい。
今回の排水パイプライン建設の責任は啓東市政府にあり、このプロジェクトが市の発展に本当に必要だと考えるならば、このプロジェクトの有効性や必要性、安全性を具体的なデータとともに住民に示し、住民を説得する作業が市政府には必要なはずである。権力と「民」が同じ土俵に立って話し合い、よりよい結論を得る場や方法論が不可欠だ。しかし、中国社会の現状では、それが難しい。なぜかと言えば、政府にまるで信用がないからである。多くの人々は政府が何を言っても「どうせ権力者のカネ儲けのために都合のいいことを言っているに違いない」と考えて、聞く耳を持たない。権力者と「民」が対話する土台が根本的に欠けている。
だから市民は、力に訴える。それはこれまで権力者が力に頼って物事を解決してきたことの、まさに裏返しである。権力の側が力で押し切れなくなってきたので、人民の側が力で押すようになった。過激な破壊行為など、いわば「民の違法行為」は事実上黙認され、合法的な経済活動が犠牲になるという状況が出てきている。これは現在の権力者に社会を安定的に統治する能力が失われつつある兆候と見るべきだろう。