caprinのミク廃更生日記

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中田英寿の引退宣言 (狂童日報)

http://d.hatena.ne.jp/qushanxin/20060704

 自分は中田英寿のストイックさが好きだった。なので、ここでは彼を擁護してみる。

 まず、サッカーと野球の立場を入れ替えてみる。
 『野球は詳しくないので長嶋茂雄の引退宣言にはこれといった感慨はないのだけれど、彼が日本プロ野球界の「顔」であるのはいいことじゃないな、と長い間傍目から見て思ってきた。』

 どうだろうか、野球ファン、特に巨人や長嶋ファンとってはちょっと不快に感じることかもしれない。でも、これはネタと思われるかもしれないが、長嶋の現役を知らない若い世代には実は結構あることのようだ。

・関連リンク 長嶋的なるものが日本を滅ぼす (孤流天路)

 そりゃ私も面と向かって私達より上の世代、特に団塊世代の長嶋や王と共に生き、同じ感動を味わった者達に「長嶋なんてたいしたことない」なんていうひどい言葉は使わない。長嶋達が野球のもっとも輝いた世代を築いたのは確かだし、記録も確かにすごいものがある。王・長嶋の天覧連続ホームランなんてのは、ビートルズの来日映像と同じくらいVTRで何回も見せられた。ただ、その時代を一緒に共有出来なかった者には、歴史の史実としては知っていても、その瞬間を一緒に体感した気持ちがないので、熱い共感はしにくいんだよな〜。つまり、巨人の監督だった時しか見ていない若い世代にとっては、長嶋は他人には伺い知ることの出来ない妙な采配をふるう変な人物だったりする。「昔はすごい人だったのかもしれないけど、この人がいつまでもプロ野球の顔でいいのか!? 我々の世代はイチロー・松井こそが野球の顔だ。」というわけだ。

 カズこと三浦知良は万人に愛される、明るさと人格を備えた選手だった。愚痴も人の悪口も一切言わず、挫折を繰り返しても常に強く明るく振舞い、ショーマンシップにあふれていた。彼が日本サッカーの「顔」だった時代、サッカー音痴の野球ファンからみても彼のスター性は素晴らしかったし、当時のJリーグの雰囲気も非常に明るく、当時のプロ野球がいかに野暮ったいものであったかを痛感させられていた。しかし中田英寿はカズの作り上げた明るさを、いっぺんにぶち壊してしまった感じがする。彼が日本代表の中心選手になるにつれて、ウザイくらいの目立ちたがりやの集まりだったサッカー選手は、次第にストイックで気難しい顔つきに変わっていった。これは推測だが、中田が「あいつの前で馬鹿なパフォーマンスは出来ない」という雰囲気をつくってしまったところはあると思う。

 さて、そういったことを踏まえてカズを考えてみると、同世代の人間が彼を応援するのは当たり前だが、彼もまたサッカー選手としてずっと誰からも愛されていたかどうかは疑問が残る。今でこそこのような

・参照リンク:カズ、中田との秘話明かす「W杯予選後に…」

インタビューのお手本のようなコメントを残しているが、日本代表で中田英との間にはどちらがフリーキックを蹴るかどうか、戦略面でも確執があったらしい。当時(フランス・ワールドカップ予選時)の中田や名波浩の目指すサッカーと、カズの目指すサッカーに違いがあったのかもしれないが、フランス・ワールドカップ予選を勝ち抜いた後、結局、本選レギュラーの中に代表確実と言われていたカズの名前はなかった。(世代交代を進める岡田監督の意向もあった) その時のサッカーファンの声には、「やれやれ、やっと代表からはずれたか…。いつまでもキング、キングって言ってるんじゃねえよ。」とか、「カズのフリーキックするばかりじゃなく、たまには名波に譲れよ。」とか、「いつまでもロートルを入れてるんじゃね〜。」とか、結構辛らつな意見も多かったように思う。
 また、ファッションの面でもポパイみたいなファッション雑誌に出て「芸能人じゃあるまいし、変に格好つけるな。」というのもそれなりにあった。いや、もちろん、今の自分はカズを尊敬こそすれ、非難する気はさらさらない。マスコミの受けは良いし、実際性格も中田よりも良いのだろう。そしてなによりJ1よりもさらに沢山の試合数をこなさなければいけないJ2にあって、いまだ現役にこだわり続け活躍しているところを見ると、永遠のサッカー少年として「自分で限界を感じない限り、いつまでも頑張って欲しい。」と心から思う。
 ただ、ある意味カズを引きずりおろしたことで世代交代が進み、日本サッカーの顔としてカズにとって変わった中田にカズと同じような振る舞いを願うのはちょっと無理があると思うのだ。また、中田も同様に、自分こそが日本サッカー界のトップだという選手が現れて、中田を代表から引きずり落とすぐらい優れた選手が出てきたら良かったのだが、3回のワールドカップ、彼が代表に選ばれてから9年の間にそういう選手が現れることはなかった。

 中田の実力は正直なところよくわからない。彼のおかげで日本サッカーのレベルが上がったところもあるのだろう。しかし、彼のようにストイックで気軽に声をかけられないような雰囲気をもった、本来なら「ヒール役」をつとめるような選手が日本サッカー界の「顔」だったことは、正直なところ非常に不幸なことだったと思う。プロ野球に関していえば、人気向上に貢献した人物はいうまでもなく長嶋茂雄王貞治である。彼らは決して愚痴や悪口ひとつこぼすことなく、日本野球界の顔であることを自覚して、常に万人に愛させるような選手であることを心がけてきた。野村克也江夏豊のような「ヒール役」は、王・長島らを鏡にしてこそ生きたのである。本当はサッカーでも、カズのような垢抜けた人格のある選手が鏡になってこそ中田の存在が生きたと思われるのだが、不幸にもそうはならなかった。

野球ファンの目から見て、サッカーは人気があるはずのなにサッカー界に活力がないように見えるのは、色んな理由があるとは言え、やはり一つには中田に責任があるのではないだろうか。やはり、プロスポーツ界のトップ選手は万人に愛されるような普遍性をもったキャラクターでなければならないと考える。

 世界のトップレベルをいえば、まだまだ上があるが、日本人の中では中田ほど実績のある選手はいまだかつていなかった。Jリーグベルマーレ平塚でプロになってから、ヨーロッパの中でももっとも厳しいと言われるイタリア・セリエAで10年近くプレイすること(ペルージャASローマパルマボローニャフィオレンティーナを渡り歩き、最後はイングランド・プレミアリーグボルトンにレンタル移籍)、それはスコットランドリーグ・セルティックの中村、ドイツ(ブンデスリーガ)・ハンブルガー、フランクフルトの高原、オランダ・フェイエノールトにいた小野でもさらなるキャリアアップのない限りなかなかかなわない偉業と思う。野球でいえば、今まで日本人では無理と言われていたMLB(メジャーリーグ)に野茂が道を切り開いたように、サッカーでは最高峰にあるヨーロッパリーグへの道を開いたのは間違いなく中田だ。そして、おおげさでもなんでもなくイタリアの中で一番有名な日本人といえば、中田があがると思う。その実績を知らないで彼を「ヒール役」と言われるのは、サッカーファン(特に中田のファン)としては結構ショックを覚える言葉だ。

 中田だけが日本サッカー界の顔ということが、不幸と言われればそりゃ不幸なことだったのかもしれないが、それは中田にとっても不幸なことだっただろう。でも、それは彼を選手として特別な存在として持ち上げたまわりの人やマスコミ達がやりすぎた結果なのであって、別に彼自身の責任ではないと思う。マスコミに対しては冷たかったかもしれないが、Nakata.netみたいな場所で自分のやり方、気持ちはちゃんとファンに届けていた、少なくとも届ける努力はしていたと思う。それに、少なくとも最後のワールドカップで彼はDFの宮本と違ったところでリーダーシップを発揮しようと躍起になっていたではないか!? それが空回りし、結果的にうまくいかなかったから叩かれているのかもしれないが、じゃあ、彼の期待にこたえられる力を発揮した選手というのも数えるぐらいしかいないと思うし、絶対勝つという信念を持っていたのも彼だけのように見えた。いや、そもそも今回の日本代表のリーダーはもともと宮本であり、人格者はぶっちゃけ彼だけで良かった。私はプロ野球選手と違って、サッカーの攻撃的選手(FW、トップ下のMFに限らず)において常に人格者である必要はないと思っていて、むしろ自分にゴールチャンスが来たときには、わがままに自分だけがヒーローになろうとするエゴをのぞかすのもストライカーの条件だと思う。今回の日本代表のFWみたいにボールをもらってもゴールに向かわず、シュートを狙える場所で味方にパスを出して決定的なチャンスをつぶすのであれば、FWとしての存在価値はないと思う。日本人と外人のもともと持っている身体能力の差もさることながら、今回は特に精神面の弱さで差がつき、決めるときに決められず日本は負けてしまったのだから、自分が今日本代表に欲しいと思う選手はもっとエゴイストにゴールを狙え、そして決めてくれる選手だったりする。

 また、日本サッカー界の活力という点では、イタリアにずっといた選手がJリーグの活力に貢献出来るわけはないし、そういう意味で彼は海外でずっと一人で戦ってきた。そんな彼のサッカーに対するストイックなキャラクター性をトップ選手にふさわしくないとする一因とするのもまた厳しすぎる意見だと思うよ。

 そして、願わくば4年後もし日本がワールドカップに出られるのなら、フランスのジダンみたいに中田待望論が出てこないことを祈りたい。これから、日本史上最強と言われた中田達の黄金世代は一人また一人と日本代表から去ることになるだろうが、一人選手が去るたびに彼らの意志を受け継ぐ新しい選手が出てくることを願う。黄金世代より下の世代は、U-17でもU-20でもオリンピックでも芳しい成果は挙げていないが、それでもあと4年はあるのだ。オシムによって見出される選手もいるだろう。そうやって世代交代が完了した時には、「あ〜、中田英!? 今さらそんな古い人いなくても、俺らだけでも十分戦えるよっ!!」という力強い声を聞きたいものだ。(いや、もちろん童夢兄弟みたいに口だけでなくちゃんと実績も実力もつけてね)


・関連リンク ラモス瑠偉×中田英寿 (乙武洋匡公式サイト)

http://sports.cocolog-nifty.com/ototake/2006/07/post_6276.html


・関連リンク 「じゃあ、またね」――旅人・中田英寿へ贈る (Yahoo!スポーツ 2006FIFAワールドカップ)

http://wc2006.yahoo.co.jp/voice/nonfic/komatsu/at00009824.html


・関連リンク 軌跡(後編)――中田英寿と日本代表の9年間

http://wc2006.yahoo.co.jp/voice/nonfic/komatsu/at00009209.html


・関連リンク 中田英寿引退報道に思う (スポーツナビ)

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/wcup/06germany/column/diary/200607/at00009797.html